課題曲作曲者インタビュー③:安倍 美穂 先生(小学3・4年生A部門「夢のなかで」)

2022年10月26日水曜日

作曲家は、どんなことを考えて曲を作っているのでしょう?
短い曲でも、そこにはその何倍もの作曲家の想いが込められています。
2022年度ブルグミュラーコンクール課題曲の作曲家の先生に伺ってみました。

第3回:安倍 美穂 先生(小学3・4年生A部門「夢のなかで」


安倍 美穗(あべ-みほ)先生


■夢の中の場面の変化を感じて


Q.「夢のなかで」の曲には、どのような想いがこめられていますか?

A.夢って人それぞれだし、他人の夢って見ることができないでしょう。だから、「私が見たのはこんな夢だったのよ」というのをそれぞれイメージして弾いていただけたらいいなと思います。

皆さんは夢でどんなところに行ったことがあるかしら?おもちゃの国でもいいし、お菓子の国でもいい。歩いていたらお花を見つけたり、小鳥さんが鳴いていたり、音が高くなったところで空を見上げたら雲があったり。アウフタクトで始まるので、「どこへ行くのかな~」と夢の中を歩いて行って、A-A’-B-A”と4つの場面で色々な風景と場面の変化があるといいですね。(※課題曲としてはA’にあたる繰り返しは省略されます)


Q.場面の変化は、どのような形で表されていますか?

A.まずはA’でp(ピアノ)になるところで変わりますね。少し暗い所に入ったかな?と思うような。そして、A-A’では「短い・短い・長い」というフレーズに分散和音の伴奏だったのが、Bでは同じくらいの長さのフレーズが続き、左手が下降する単音の伴奏になります。そして、ここで初めて左手にフラットとナチュラルが出てきます。臨時記号というのは、作曲家からの大きなサインですので、見逃さずに、そこに隠れている和音を見つけてください。単音のところも、コードで弾いてみると和音やニュアンスの変化が感じられていいかなと思います。そういう所で、自分なりのストーリーを考えていただければと思います。



■8分の6拍子とアウフタクトの感じ方


Q.拍子の要素としては、どのような工夫がされていますか?

A.夢の雰囲気を出すために、8分の6拍子で、ゆりかごのように揺れる感じにしています。夢っていつのまにか入っていたり、いつの間にか目が覚めたり、途中で知らない間にぐっすりと眠ってしまっていたりしますよね。そういうふわふわした感じが出るといいなと思いました。

例えば最後なども、いつの間にかぐっすり眠ってしまったかもしれないし、はっと目が覚めたのかもしれない。レッスンの中ではそうやって色々と遊びながら試してみていただいてもいいかなと思います。

8分の6拍子はよく“8分の3拍子が2個”になってしまいがちなので、先生が低音でベースをつけてあげるだけでも拍子や流れがつかめるので、すごくお勧めです。

アウフタクトのエネルギーも大事な要素です。アウフタクトは、宙ぶらりんで、足を上げている状態。この曲の最初のアウフタクトは伴奏がないので、聴いている人も地に足がつかない状態で、1拍目になって初めて「ああ、こういう調性ね」と分かります。でも、アウフタクトを感じすぎてしまうと、1拍目がどこか分からなくなってしまいやすいので気を付ける必要があります。スラーのつながりも大切ですが、小節の切れ目というのはとても大事で、小節線をまたいで和声も変わっていますので、「ここが1拍目」というのを弾き飛ばしてしまわないようにしたいですね。



■自分の子どもの頃に欲しかった曲を作る


Q.安倍先生が作曲される時のイメージの源泉は何でしょうか?

A.子どものための曲を作ることが多いので、子どもがタイトルを見て、曲を聴いてイメージしやすいものを考えることが多いですね。私が子どもの頃には、子どものための近現代曲ってほとんどなかったんですよね。なので、自分が子どもの時にこんな曲があったら絶対喜んで練習したわ、と思うものを作ろうと思っています。男の子が喜ぶ曲も少ないので、男の子が喜びそうなカッコいい曲も作りたいと思っています。

また、「自分にも作曲ができる!」と思ったきっかけが、リトミックで即興演奏を勉強したことなので、どういう風にすると子どもが動けるかという観点、動きを伴った音楽、というのも、私の原点にあります。作曲をしてみると、どこからクレッシェンドを書くかとか、気持ち的にはf(フォルテ)だけどfって書くと子どもはバンバン弾いちゃうかなとか、色々と悩みながら作るので、楽譜の見方が変わってきます。作ってみるとすごく世界が広がるので、ピアノの先生方にもぜひ作曲してみることをお勧めしたいです。


Q.参加者の方へメッセージをお願いします

A.音楽って自分を表現するものだし、楽しいものですよね。人と一緒じゃないといけないとか、間違えちゃいけないとか思わず、コンクールだからといって硬くならないで欲しいなと思います。「音楽は楽しいものだよ」っていうことをいつも忘れないで、コンクールとつきあってもらえたらと思います。


(2022年8月1日取材)
※記事の公開が遅くなってしまいましたことを深くお詫び申し上げます。


■安倍 美穂(あべ みほ)
大阪音楽大学卒業、同大学院ピアノ科修了。ピアノを沖田静子、平井丈二郎、安川加寿子、V.マルグリス各氏に、リトミック、即興演奏を馬淵明彦氏、チェンバロを鴨川華子氏に師事。またオペラ伴奏をS.マストランジェロ氏に師事、オペラ公演、オペラ講座のアシスタントを多く務める。ピティナステップトークコンサートを全国各地で展開。作曲家としては、こどものためのピアノ曲集「なにしてあそぶ?」(カワイ出版)、「発表会に長くてかっこいい曲を弾こうシリーズ」「プレリーディングおもしろ伴奏集」(ピティナミュッセ)他出版作品多数。ピアノ専門誌「ムジカ・ノーヴァ」に「ポピュラーピアノ for Kids 」を連載。ピティナ新曲課題曲賞受賞5回。

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