課題曲作曲者インタビュー②:松田 紗依 先生(幼児部門「さあ すすめ」)
2022年10月14日金曜日
作曲家は、どんなことを考えて曲を作っているのでしょう?
短い曲でも、そこにはその何倍もの作曲家の想いが込められています。
2022年度ブルグミュラーコンクール課題曲の作曲家の先生に伺ってみました。
第2回:松田 紗依 先生(幼児部門「さあ すすめ」)
■小さいものたちが進もうとする一生懸命な気持ち
Q.「さあ すすめ」はどのようにして生まれた曲でしたか?
A.作曲をする時には、色々なものからイメージが湧いてくるのですが、特に自然を見ていて感じたことを音にしたり、絵本を読んでいて「あっ、この場面に合うような音が聞こえてくるわ!」ということもあります。小さい方のための曲を作る時には、特に絵本を見ることが多いですね。
「さあ すすめ」の曲は、娘に昔読んであげた「そらまめくん」シリーズの絵本『そらまめくんとめだかのこ』という本からもイメージをもらっています。そらまめくんたちがめだかのこを助けるために、一生懸命にそらまめのさやを運ぶ場面を思い描きました。またスペインの絵本で、てんとうむしが結婚式に行列している様子や、うちの家の庭でアリが並んでとことこ歩いたり、小さなカタツムリが葉っぱの上でゆっくり歩いている様子などを見て、小さなものたちが一生懸命に歩いたりものを運んだりしている雰囲気をイメージして作った曲です。「さあ すすめ」には、こうした「さあ、これから行こう!」という時の、気持ちの一生懸命さを曲に込めました。
できた曲を生徒さんたちに弾いてもらって、思い浮かぶことを聞いたところ、「遠足でお山に登ったところ」など、色々な「さあ すすめ」が出てきました。弾く方によって、それぞれの「さあ すすめ」があっていいのではないかなと思うので、ぜひ想像をめぐらせてみてください。
Q.演奏の指示としては、「はっきりと」という言葉と、強弱記号とが記されていますが、これらには、どのようなことが込められていますか?
A.私は、そらまめくんたちがさやを運んだりする時の一生懸命さをそこへ込めました。楽譜には mf(メゾフォルテ)とか f(フォルテ)とかの記号としてしか書けないのですが、その中には色々な意味があります。例えばフォルテもただ強いのではなく、明るいフォルテがあったり重いフォルテ、分厚いフォルテ、ゆったりしたフォルテもあります。色々なフォルテの中から、それぞれの場面で曲からのイメージを膨らませていただけたらと思います。ここでは、目標に向かってしっかりした気持ちで進むような感じですね。音量が小さくても、はっきりとした感じは出ると思います。
Q.ご自身で指導される時には、絵本を見せてイメージを膨らませたりされますか?
A.しますね。絵本を見せたり、曲に合わせてお話を作ったりしながら、イメージが湧くように指導することもあります。お話も、生徒さんによってその時その時で違ってきます。
■レガートの交互奏と、2分音符の5番の指
Q.テクニック的なポイントはどういうところでしょうか
A.4つと3つのレガートで交互奏になっているところですね。この曲は『ピアノレッスン併用曲集1』の29曲目に入っているのですが、交互奏自体はピアノレッスンシリーズ1巻目の『プレピアノレッスン』の一番最初から出てきます。左は左、右は右と分けて弾くのではなく、左右の手でメロディラインを弾くことで、体全体で音楽を捉える力が育ち、左手にも脳の神経が行き届くので、歌おうとする左手が育つので、はじめから左右の交互奏を入れています。まずは1音ずつの交互奏。次は2本、3本、4本…と1本ずつ指を加えていきます。「さあ すすめ」のあたりでは、4つのレガートを「ファミレドシラソ」という順次進行と「ソラシドレミド」という戻りとの両方の形で学んでいきます。
もう一つのポイントは、右だけ1音5の指が出てくるところです。1,2,3,4の4本の指で弾いてきたところで、このあたりから5の指も使って弾いていくことを提案しています。ピアノを弾いていく上で、指のフォームが大事になってくるのですが、あまりたくさん4分音符が続くと、フォームに負担がかかってくずれてきてしまいます。そこでここは2分音符にして大事に弾けるようにしてみました。2分音符を入れることで、そこでちゃんとゆるめて、フォームがしっかり保てているかを確認してから進めるように、という意図があります。特に、5の指で弾いた時、2番の指が鍵盤の上にちゃんとあるか、確かめてあげるとよいと思います。弾いていない指が上に上がったり手首が落ちてしまったりすると、次に行く準備ができませんので。
Q.参加者の方へメッセージをお願いします
A.この曲に出会って、色々なコミュニケーションが生まれ、楽しくレッスン時間を過ごしていただけたらと思います。この曲を弾く皆さん1人1人が、心を込めて弾けて、自分の音を楽しく聴ける、そして「こんな曲がありますよ」と紹介していただくような気持ちで弾いていただけたらいいなと思います。
この曲に対して「こんなお話ができた」と書いたり、「この場面に合うんじゃないか」とイメージを膨らませていただくのも、歌う気持ちの助けになるのではと思います。色んな「さあ すすめ」を期待しています。皆さんぜひ一生懸命に取り組んでみてください。
(2022年7月19日取材)
※記事の公開が遅くなってしまいましたことを深くお詫び申し上げます。
■松田 紗依(まつだ さえ)
兵庫県宝塚市生まれ。6歳よりピアノを始める。華頂女子高等学校音楽科ピアノ専攻卒業。同志社女子大学学芸学部音楽学科ピアノ専攻卒業。カナダ、ヴァンクーバーにて、ピアノ教育者エドワード・パーカー氏に師事、また助手も務める。その後渡英し、スラミィタ・アロノフスキー教授(ロイヤル・アカデミー・オブ・ミュージックの教授、ロンドン・インターナショナル・ピアノコンペティション審査委員長)に師事し、ロシアン奏法を学ぶ。英国王立音楽院ピアノ演奏家試験(A.R.C.M.)に合格。
帰国後は、ピアノ教室「音のアトリヱ 」を主宰し、ロシアン奏法およびロシアン・ピアノメソッドによる教育の普及につとめる。長年のロシアン・ピアノメソッドに基づくピアノ指導の成果を、自作曲の初級テキスト「ピアノレッスン」(全7巻)にまとめる。続けて、ロシアン奏法に基づく「ちいさな練習曲集」を発表。ピアノ指導者を対象とした「ロシアン奏法に基づく合理的な練習方法」の講座を全国各地にて実施。京都を拠点に、ロシアンピアノ研究会を主宰。ピアノ指導者を対象とした雑誌「ショパン」「ムジカノーヴァ」へ寄稿、ピティナ機関誌などにも取り上げられる。
2015年、30年かけて創作した「ピアノレッスン」シリーズを、「ロシアンメソッド初級テキスト ピアノレッスン」シリーズとして全8巻に再編しカワイ出版より刊行。
ピアノを中心とした作編曲を多数発表。ピアノ連弾曲(編曲)「大きな古時計」「風のとおり道」、朗読と音楽「スイミーを読んで」「やまなし(宮沢賢治)」など。教育委員会主催の読書フェイスティバルや小児ホスピス、ピアノ発表会等で演奏される。自らも、自作品による演奏活動等を実施。地元の小学校や仙台の幼稚園での児童とのコラボレーションや、日本財団助成「親学レクチャー&コンサート」、ピティナ京都支部主催記念コンサートなど。彫刻家で芸術院会員であった故・松田尚之のアトリエを、「音のアトリヱ」としてコンサートホールに改装。創作活動や音楽の交流の場として受け継いでいる。ヨーロッパ国際ピアノコンクール、ショパン国際ピアノコンクールin ASIA、ピティナ・ピアノコンペティションなどの審査員を務める。(社)全日本ピアノ指導者協会(PTNA)正会員。PTNA京都アトリヱステーション代表。 PTNA京都支部副支部長。