課題曲作曲者インタビュー①:轟 千尋 先生(幼児部門「おおきなたいこ」)
2022年9月6日火曜日
作曲家は、どんなことを考えて曲を作っているのでしょう?
短い曲でも、そこにはその何倍もの作曲家の想いが込められています。
2022年度ブルグミュラーコンクール課題曲の作曲家の先生に伺ってみました。
第1回:轟 千尋 先生(幼児部門「おおきなたいこ」)
■大きな音で楽器を響かせる経験を
Q.「おおきなたいこ」はどのような想いで作られた作品でしょうか
A.この作品の狙いは大きく3つあります。
①大きな音をイメージして出す
今は、電子ピアノだったり、おうちで大きな音で弾けないケースもあり、「大きな音を出す」「楽器を思い切り響かせる」という感覚をつかみにくくなっています。力いっぱい鍵盤をたたくわけではなく、音を響かせること、音を遠くに飛ばすイメージを膨らませることが大切です。楽譜のイラストでは、ねずみさんが大きなたいこを勇ましくたたいていますが、自分よりも大きなものに立ち向かう時にはどれだけのパワーとエネルギーが必要か、想像して欲しいと思っています。
②手の運動がもたらす「ワクワク」を体験する
奇数小節は、右手と左手が交互にバチを持ってたいこをたたくような運動になっています。バチでたいこをたたく動きって、テンションが上がりますよね。そのワクワク感を出したいと思い、この手の動きを大事にしました。また、最後の音は手を交差させて右手でわざとぶつかるような音を出すのですが、これも、こうした動きや音のぶつかりを、おもしろいと思って楽しんでもらえたらいいなと思っています。
③音の違いを楽譜から見つける
偶数小節は少しずつ音が異なっています。そこを先生が教えてしまうのではなく、「音が上がっているのはどこ?」「下がっているのは?」「どれが一番高い音かな」と、ぜひクイズにして楽譜の中の音探しを楽しんでもらいたいと思っています。この段階では、まずはそれを見つけられることで十分。その「達成感」を感じて弾いてもらいたいと思います。
■たたく時の「エネルギー」「ワクワク感」を大事に
Q.「おおきなたいこ」はどんな種類のたいこをイメージしているのでしょう?
A.それはあえて明言せずに、弾く子たちがどう感じるかを大事にしたいと思っています。幼稚園にあるたいこかもしれないし、和楽器や民族楽器かもしれない。見たこともないような巨大なたいこかもしれないし、段ボールで作ったたいこかもしれない。本人がどう感じるか、どう考えるかを大切にして、イメージを膨らませて弾いてもらえたらなと思います。
そして、たいこの音色だけではなく、たいこをたたく時の「エネルギー」に注目してもらいたいと思っています。
Q.エネルギーと言うと、この楽譜には、テンポ表示も強弱記号の指示もありませんね
A.どちらもあえて入れていません。
テンポ感はとても大事にしています。大きなたいこですから、あまり速くはたたけないですよね。でも逆にゆっくりすぎても、あまり楽しくない。どんな速さで弾くかは皆さんが考えていいので、先生と一緒に相談しながら、本人がイメージするたいこを、一番「ワクワクするテンポ」で弾いてほしいと思います。本人の性格によっても出てくる音色は変わってくるので、その子一人ひとりの感覚を大事にして欲しいなと思っています。
強弱記号については、まだ f(フォルテ)や p(ピアノ)を知らない段階でも弾けるように、ということでつけていません。また、ただ「 f=大きい」と捉えるのではなく、自分よりも大きなものをたたく時の「エネルギー」を感じて、音に乗せて欲しいと思っています。それには、たいこでなくても、家にある段ボール箱でも、布団でもベッドでも、お父さんのお尻でも(笑)、思い切りたたいてみる経験をするとよいと思います。お風呂のお湯も、そっとたたく時と大きくたたく時、グーでたたく時とパーでたたく時とで、しぶきも音の感覚も違いますよね。色々な音を出して遊びながら、パワーのため方や出し方を実験をしてみるといいですね。そうしてみた時に、本人の気持ちがどうなるかを感じて欲しいです。発散する感じを体験すると、鍵盤に向かった時の身体の感じや気分が変わってくると思うので、そこで子どもたちがどんな音を出すのか興味があります。
皆さんならではの、10人いたら10人違うたいこでいいと思うので、まずは、音楽を楽しむ、音を楽しむ、ということを忘れないで弾いていただけたらいいなと思います。
(2022年7月15日取材)
■轟 千尋(とどろき ちひろ)
作曲家。東京藝術大学卒、同大学院修了。
日本フィル、九州交響楽団、兵庫芸術文化センター管弦楽団等のプロオーケストラ、広上淳一、徳永二男、三浦文彰、仲道郁代、三舩優子、辻井伸行、米良美一の各氏など、数々の一流演奏家に作品を演奏されている。出版物多数。
特に、ピアノ曲は例年全国各地のコンクールの課題曲に採用され、TikTokやInstagram等での楽曲再生回数は月2000万回以上にのぼる。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会評議員。